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高校の時、記憶喪失になりたいと思っていて、頭を強く打ち付けたり、私には記憶がないのだと思い込もうとしたりしていた。嫌な記憶ほど、頭に残りやすくて、いつまでも消えない。二度と同じことにならないように、防衛のために記憶しているのかもしれないけれど、そうだとしても記憶を消したくて高校生のとき、いろいろ試行錯誤していた。結局のところ、私には嫌な思い出、嫌な人を少しだけ編集して良い記憶にできるだけ近づけることくらいしかできなかった。そのときのその場面で好きな音楽を流したり、一時停止をして心の準備をしてから、何度も再体験させるといったことを自分の心の中でやった。衝動さえ私に起きなければ、時間が経過していくことを私が許しさえすれば、あらゆる物事は忘却され表面的には無くなっていく。だけれど、忘れないでその人のことを永遠に遠ざけていたかったり、ふとしたときに思い出すのが怖くて、ずっと消さないで今のままでいいと思う私もいて、事態は思うほど単純ではない。普段怒りをあまり抱かなかったり、変に冷めた目で人を見ているせいで、ふとしたときに今まで私に負の原因を与えた人間全員に対して応報主義のように同程度に苦しんでほしくなったりする。だけれど、自分の中の主義のために、そうしてはいけないという考えのために、私は塞ぎ込み、矛盾した自分を消してしまいたくなる。そういった過程を踏んで自己嫌悪が起こることもある。記憶を消したい、悲しいときにまとめて今までの記憶が全て鮮やかに思い出されるので、良くない。中学のときにふってしまった男の子の連絡を返さなかったこと、その子が成人式に来なかったこと、中学の友人に一人で旅行した方がましだと言われたこと、無視され続けたこと、中学のときにホルンはいてもいなくても同じだと先輩に言われたこと、ホルンは先輩がいなくて誰にも教えてもらえなかったこと、修学旅行前に笑っていた女の子を退学させてしまったこと、不登校になると分かっていて別の女の子がその子に関わっていくのを止めなかったこと、結局不登校になってしまったこと、中学のとき成績が良くなくて死にたいと言ったら怒られたこと、死にたいと思っていないときの私の方が好きなんだろうなと思ったこと、どちらが正しいか言うように言われ私だと答えたら叩かれたこと、兄に殴られるのが怖かったこと、小学校のとき訳のわからないルールで怒られたこと、リストカットの傷を気持ち悪いと言われたこと、父親を泣かせたこと、もう疲れたと言われたこと、病気になって迷惑をかけてごめんなさいと電話越しに謝っているのを見たこと、もうそろそろ勉強できるでしょと甘えだと言われたこと、それがあまりに辛くて父親の家に逃げたこと、私の意見を聞かないで無視し続けたこと、彼が医者になって救うという言葉を用いること、救えない癖に近づいて余計に傷つけて離れていったこと、嫌だったことを伝えても言い訳されること、せめて関わらないでほしかったこと、担任が私のことを伝えないでと言ったのに女の子に教えてしまったこと、兄と常に比べられること、私は少し劣っていると見られていること、自傷させてしまったこと、女の子から逃げてしまったこと、学年主任が私の話を聞かないこと、目を細めてカウンセラーのように憐れんで頷く教師がいたこと、きみならできるよと無責任な言葉を退院後にかけられたこと、数学が分からなくなっていてレベルを一つ落としてもらったこと、本当はあなたのせいだと叫びたかったこと、違うんだって安心してほしくなかったこと、私が好きな人を苛めた人間全員の当時の声と表情、友人だと思っていた人すら気持ち悪いという言葉を使ったこと、そのときに保育園来の付き合いだったのに一気に冷めてしまったこと、心に壁を作ったまま、許さないまま、だけれど事情があったのだからと自分に深く関わらせないで今も話すこと、やめてと言っているのにする人がいること、記憶から消せたものもある、私は忘れたいと思う、今も心が許せないとうるさいけれど、その人たちのことが好きでしょう、今私のことを好きと言ってくれるならそれで十分なはずなのに、どうして忘れられないのか、いつも希死念慮でそういったことが全て襲う度に思う、記憶から消したい、幸せなことだけ覚えていたい、目に見えるもの全てが幸福だったあの時間に戻してください、神様。消してほしい。過去すら消してほしい。再記